Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
本当ならば、何ものにも煩わされず、ここには一人で来たかったと、遼太郎としては思わなくもなかったが、こんなことでもなければ来る機会はないかもしれない。
遼太郎は心の中で何度も溜息を吐きつつ、本来の目的である森の中へと足を向ける。
うっそうと生い茂る様々な樹木。木々の発する澄んだ空気とエネルギーに囲まれて、その気を胸いっぱいに吸い込む。高い梢を見上げても東京の高層ビルを見ることは出来ず、ここが東京の真ん中だということも忘れてしまいそうになる。
「……東京の真ん中にも、こんな森が残っているところがあったんですね。知りませんでした。」
陽菜も同じことを感じていたようで、その心の中の感嘆を、そうやって言葉にした。
しかし、この陽菜の発言に、遼太郎は同意するどころか、少し呆れたように面白そうな息を抜く。
「この森は、『残っている』森じゃないよ。人間が作り出した森なんだ。」
それを聞いて、陽菜は驚き、今日一番の目の丸さを見せてくれた。
「……これ、人間が作ったって?…だって、どう見ても、自然の森にしか見えない!!」
陽菜の思い描く人工の森は、杉や檜が整然と植えられている…そういうものだと思い込んでいたのだろう。