Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「うん、大木の下には小さな木が生えて、地面には苔やキノコもあって…、いろんな生物が旨く共生して、本当に『自然の森』だね。だけど、100年前の人間が、何もないところに木を植えて、この森は始まったんだ。この〝自然〟は人間が作り出した〝環境〟なんだよ」

「ええっ!?100年前までは何もなかったんですか?!」

「何もないというか、江戸時代には大名の屋敷があったらしいけど。さっき見た『清正の井戸』。あれも、あそこに加藤家の屋敷か何かがあった名残りだろう?」

「……へ?加藤家…?」


 そんな陽菜の反応を聞いて、遼太郎は本当に呆れたような声を出した。


「清正って、加藤清正のことだろ?豊臣秀吉の家臣の。土木の神様って言われてたから、井戸を掘るのもお手の物だったんだろうな。」

「へえぇ~!!狩野さんスゴイ!!歴史にも詳しかったなんて、知りませんでしたー!!」


 陽菜が胸のところで両手を組んで、尊敬と憧れの目で遼太郎を見つめる。


 そんな大きくキラキラした目で見つめられても、遼太郎の心は陽菜の可愛さにときめくどころか、一瞬にして切ない思い出の中に飛ばされる。


 肩を並べて勉強を見てもらった、朝の学校の渡り廊下……。
 お互いの息遣いさえ聞こえてくるように静かで、誰にも侵されない時間……。



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