Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 案の定、陽菜は言葉少なになった。他愛のない大学の話題が出てきても、陽菜が努力しない限り会話は成り立たないので、大半はただ黙々と神宮の森の中を歩いた。


 するとその時、突然二人の前を、何かの生き物がすばやく走って横切っていった。驚いた陽菜が、思わず口を開いた。


「…何ですか?今の。…犬?!」

「いや、犬じゃなくて、多分タヌキだろう。」

「…えっ?!タヌキ!?」

「野生のタヌキが住めるほどの森が、こんな都会の真ん中にあるなんて、やっぱり驚きだな。」


 驚いていたのは遼太郎も同じで、その心の内の感覚を素直に表現する。

 それをきっかけに二人とも構えることなく少し打ち解けて、大学のゼミ室で会う先輩と後輩のように、普通に無難な会話は交わせるようになった。


 北参道を通り森を抜けて、代々木駅方面に出ると、街の喧騒が再び戻ってくる。

 夕食にちょうどいい時刻にもなり、駅へ向かう道を歩きながら、適当なイタリアンレストランを見つけてそこに入った。
 緑を配したテラス席のある可愛い店で、遼太郎は落ち着けるその1席を希望して案内してもらう。


 リードしてくれているのに押し付けがましくなく、きちんと女子の嗜好も押さえてくれている…。

 普段女っ気がない遼太郎だが、こんなところに女性と付き合った経験が、微かにかいま見える。


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