Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「さっきも狩野さん言ってましたよね?『なりたい自分になるために努力してる』って。だから、私も努力します。精一杯頑張ってもいないのに、諦めちゃいけないんです。」
これを聞いて、遼太郎はハッとした。
自分の中に、いきなり鮮明な思い出が蘇ってくる。
『諦めるのは、本気で頑張った人だけが許されることなのよ』
高校生の時にみのりが言ってくれた言葉が心に響き渡って、陽菜の言葉がそれと重なった。
あたかもみのりがそこにいて、その言葉を言ってくれたような錯覚に陥って、陽菜の顔を見つめたまま固まってしまう。
それを陽菜は、遼太郎が自分のことを肯定してくれたと解釈したようで、ニッコリと愛らしく、それでいて不敵な笑みを湛えた。
「狩野さんに好きになってもらえるように、…私、頑張ります!!」
そう宣言すると、ぺこりと頭を下げる。そして、きびすを返すと、先に駅の改札の方へと駆けて行った。
厄介なことを抱え込んでしまって、半端ではない気の重さで遼太郎の心が曇ってくる。改札前の雑踏の中で、遼太郎はこの日一番に深い溜息を吐いた。
「前へ」と向かう足は止まり、途方に暮れて立ちすくんだ。