Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 この街に来て、遼太郎は気が付いた。山々に囲まれている盆地で、大きな川が流れてて…、自分の生まれた芳野の街と似ていると。
 市の中心部をバスで走っている時、まるで芳野に帰っているような懐かしい気持ちになった。


――芳野も、こんな街になればいいな…。


 緑の山々を吹き渡る爽やかな風を顔に感じながら、そんなことを考えた。


 それからは、高速道路を走って場所を移動し、地熱発電所に向かった。何と言っても地熱発電は、地面から湧き出す蒸気でそのまま発電のためのタービンを回すことができる。

 ここは温泉地の特徴を生かした古くからある発電所で、旅行の目的地として初めから遼太郎が目をつけていた場所だった。

 たて続けに色んな発電所を廻って、遼太郎としてはすごく充実していたが、〝再生可能エネルギー〟に関してあまり興味のない者や主体性のない者にとっては、満腹状態の体をなしてくる。
 そして、夜は遅くまで卒論の中間発表があり、ゼミ生たちは一様に疲れていた。


 それでも、この日の宿は、近くに地熱発電所があるだけあって、温泉のある民宿だ。


「温泉♡温泉♡」


 樫原がウキウキして、海を見渡せる露天風呂にスキップしながら跳んでいく。
 樫原だけではなく、佐山やゼミ生の誰もが、この温泉を楽しみにしており、この合宿の目玉でもあった。ゼミ生たちは温泉で疲れと汗を流し、溶けていくように眠りに就いた。


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