Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 時折、遼太郎から醸される〝影〟のようなもの。目の前にあるものに必死に打ち込むのは、〝何か〟に駆り立てられているから。

 それを再認識させて、これ以上遼太郎を苦しませたくなかった。


 眼鏡の向こうにある佐山の目が、どんどん切なくなって見つめ返してくれている。それを見て、遼太郎は逆に微笑みを浮かべた。


「早く行かないと、1限の講義に遅れるよ。」


 そう言いながら、遼太郎が先に階段を上っていく。

 促されて、佐山も手すりに手を置いてみたが、身体がまだ震えていて動き出せなかった。ただ深い息を繰り返し、共有した遼太郎の深い想いを胸の中に閉じ込めた。




 前期の試験も終わり、大学は短い秋休みに入る。
 その休みの間に、遼太郎は陽菜から博物館に行こうと誘われた。大学にもほど近い、区立の博物館だ。ここで「日本人のあゆみと環境問題」という企画展示が行われることを、例によって陽菜がリサーチして教えてくれたのだ。


 企画のテーマを知って、すぐに遼太郎は「行きたい!」とは思ったが、陽菜と二人きりで行くのには、樫原とのこともあり、やっぱり抵抗があった。

 どこまで陽菜がこの展示に興味があるのか分からないが、こういうことを調べてくるのも、遼太郎の気を引いて気に入られたいという目的が大きいだろう。


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