Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「読んでおくと良さそうな本だけど……、おいくらですか?……うわ、5000円!」


 本の裏表紙に印刷されてあるその専門書の値段に、陽菜が驚いて目を丸くする。
 驚く時に左手を口に当てる…そんな仕草も、陽菜はみのりを連想させる…。

 一介の学生にとって、本1冊に5000円をかけるというのは、なかなかハードルが高いのだろう。そんな陽菜の言葉を聞いて、遼太郎はフッと息をもらした。


「大丈夫、この本はもう持ってるから。」

「えっ?持ってる?」

「うん。高校を卒業する時に、日本史の先生からもらったんだ。」

「ええっ?!こんな高価なものを?」

「…うん。」


と、返事をしながら、日本史の卒業レポートの目処がついて、これと同じ借りた本をみのりに返しに行った時のことを思い出す。

 あの時はまだ想いが通じ合う前だったが、みのりは本を差し出して、


『この本は、狩野くんが持ってていいよ。これから、役に立つかもしれないし。』


そう言って渡してくれた。

 あの時、すでに自分のことを想っていてくれていたみのりは、その本心を隠しながら、卒業していく自分にこの本を託してくれたのだと思う。
 あの渡してくれる時の、みのりの少し寂しそうな柔らかい笑顔を心に浮かべると、今でも胸がキュウっと痛くなってくる。


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