Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 眠れなかったのは、遼太郎も同じだった。
 結局、みのりからは折り返しの電話もメールの返信もなかった。再びメールを送ってみようかとも思ったが、初めからみのりに会う気がないのならば、また〝無視〟されるだけだと思った。

 一人で暮らすアパートの部屋に帰ってきても、遼太郎は落ち着くどころではなく、不安のあまり何も手につかなかった。
 暗い部屋の中で明かりも灯さず、窓辺にたたずみ、そこから遠く見える高層ビルの赤い光を見つめるばかりだ。


――先生は本当に、結婚するつもりなんだろうか……。


 みのりが結婚に対してどんなふうに考えているのか、プロポーズされた相手のことをどんなふうに思っているのか。そして、今の自分のことをどんなふうに思ってくれているのか……。
 肝心なことは何ひとつみのりと話せないまま、ここへと帰ってきてしまった。


 だけど、遼太郎はもう、大人の事情に振り回されるだけの〝子ども〟ではなかった。
 焦って取り乱しても、何の解決にもならないことは分かっている。今の状況をきちんと捉える冷静さも持ち合わせていたし、逆境を打開する思考力も兼ね備えていた。


 みのりはまだ、結婚することを決意してはいない。相手のことを愛していれば、すぐにでもプロポーズを受けているだろう。


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