Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 九月の朝のひんやりとした空気の中、遼太郎は戸締りをしてアパートの階段を降り、駅へと向かって歩き出す。


 ここへ戻ってくる時には、みのりに拒絶されて失意の底に沈んでいるかもしれない……。
 それでも、もう後には引けない。後戻りしても、待っているのは〝後悔〟だけだ。どんな結果が待っていても、今はただ、なりふり構わずに全力を尽くすしかない。遼太郎は、通勤や通学の人々が足早に行き交う坂道を下りながら、自分を奮い立たせた。


 みのりを心に宿らせて見る街の風景は、何気なく見慣れたものなのに、いつもと違って見えた。朝の光は、こんなにもキラキラと輝いて、まばゆかっただろうか……。


 そのまばゆい光の中のひとつの存在に、ふと目が止まった。
 いつも遼太郎のまぶたの裏に映る、赤いカーディガンの像……。

 道行く人の中のこちらに歩いてくる一人に、遼太郎の意識が集中する。息を呑んで、意気込んで踏みしめていた足も止まってしまう。


 遼太郎と同じように大きなバッグを持って、赤いカーディガンを着るみのりは、坂を上りながらキョロキョロと辺りを見回していた。
 泳がせていた視線が、坂の途中で立ちすくむ遼太郎とぶつかったとき、


「……あっ……!?」


と、みのりは思わず声を上げた。


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