Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 みのりは、目を見張って驚いた顔のまま数秒固まった。ここでこんなふうに遼太郎に遭遇してしまうことは、想定していなかった。
 だからといって逃げ出すわけにもいかず、みのりは気を取り直すように遼太郎に歩み寄ると、向かい合うように立ち止まった。


「先生……。なんでこんな所に?」


 そう問いかけてくる遼太郎は、思いかげないものを見たかのような表情をしている。みのりは答えに窮しながらも、何気なさを装うのに必死だった。


「……いや、ちょっと……。散歩をしてたら道に迷って、駅がどっちか分かんなくなっちゃって……。」


 口から出まかせの嘘が、しらじらしく聞こえてしまうのは分かっていたが、みのりはそう答えるしかなかった。


 みのりはまさに、遼太郎が住むアパートを探していたところだった。

 朝の早いうちに遼太郎のアパートを見つけて、遠くからそっと、遼太郎が出かけるのを見届けよう……。ただそれだけ、一目だけ遼太郎の姿を見たら帰ろうと思っていた。

 二俣から教えてもらった遼太郎の住所はこの辺りのはずだが、建ち並ぶビルやマンション、どこを見ても同じに見える風景の中からそれを探すのは、容易なことではなかった。


 しかし、みのりが見つけるまでもなく、遼太郎はここにいる。今、みのりの目の前に。


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