Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「でもね。私のこと騙そうとしてたの、すぐに分かったのよ?その部屋にオールブラックスの選手の小さなポスターが貼ってあったから。」

「ああ、ダン・カーターの?」

「そう、スタンドオフの選手でしょう?だから、ピンときたの。それで、その後に俊次くんの部屋を見たんだけど、案の定足の踏み場もないくらい、メチャクチャだったわ。」

「想像つきます。」

「だけど俊次くんは、ラグビー、すごく頑張ってるみたいね。入部する時こそ『兄ちゃんと比べられそうでイヤだ』って渋ってたけど、一年生の時からスタメンだもん。」


 遼太郎は優しい微笑みを浮かべながら、相づちを打つだけなのに、みのりの方は言葉の洪水を止めることができなかった。遼太郎と二人きりになって緊張のあまり、ドキンドキンと心臓が激しく脈打って、何かしゃべっていないと、自分がどうにかなってしまいそうだった。

 しかし、遼太郎が勉強机の椅子に腰掛けてスマホを取り出し、それを扱い始めると、みのりは言葉を潰えさせた。

 スマホを見下ろしうつむく遼太郎を、見ているだけでこんなにも心が切なく震える。
 けれども、この心の内を遼太郎には知られることなく、ここを立ち去りたかった。再会した遼太郎には、〝いい先生〟のままで別れたかった。


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