Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜




 好きで愛しくて、どうしようもない切なさは、想いが通じ合ってからの方が強くなった。


――…遼ちゃん…。


 まだ呼び慣れていないその名を、心の中でそっと呼んで、膨らみすぎた感情を少し和らげる。切なさで苦しい胸に手を当てると、手のひらに乱れた鼓動を感じた。


 後方の教室のドアの開けられる音が鳴り、先ほどの男性講師が入ってきた。同時に「あと5分です」という放送が入り、みのりはハッとして我に返った。
 乱れた鼓動を覆い尽くすように、突然脈拍が一気に速くなり、動転して体が震えた。


 高校入試という大事な仕事を目の前にしているのに、物思いにふけるなんて何ということだろう。冷たいものが背筋を落ちていくような感覚になって、みのりは固唾をのんだ。

 取り乱している心を気取られないように、大きく呼吸して平常心を探す。とりあえず、この時間の試験は何事もなく終わってくれそうだったので、胸をなでおろした。


 仕事中は、遼太郎のことは考えないようにしなければ。四六時中遼太郎のことを考えていたら、きっとそのうち取り返しのつかない失敗をしてしまう。
 遼太郎への想いに溺れそうになっている自分を改めて顧みて、みのりは怖ささえ感じた。


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