Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
けれども今、しなければならない話はこんなことではない。何としても、みのりがプロポーズされている結婚を阻止しなくてはならない。このままでは、自分は『狩野くん』という思い入れの強い〝生徒〟のまま、みのりにとってただの思い出となってしまう。
お湯が沸いて、遼太郎がコーヒーを淹れ始めると、アパートの部屋中にコーヒーの匂いが漂った。無心でお湯を注いでいるように見える遼太郎を、みのりはローテーブルの側に座ったままジッと見守った。
ヤカンを持ち上げる腕、しっかりした肩、長く伸びた足。鍛えられてはいるけれども、現役でラグビーをしていた頃の厳つさはなくなり、その分スラリとした印象を受ける。
立ち上る湯気の中にある端整な遼太郎の横顔を見て、みのりはまたドキドキと胸を高鳴らせた。
――……遼ちゃんは、大人になった。
離れ離れになってからまだ二年と半分しか経っていないのに、遼太郎はとても努力をし自分を高めて、みのりが想像していた以上に立派な〝大人〟になっているのだろう。
それは、その顔つきを見れば分かる。目の前にいる遼太郎は、思わず見とれてしまうほど素敵な〝男性〟になっていた。
みのりの想像していた通り、きっと周りの女の子たちは遼太郎を放ってはおかなかったのだろう。彼女を作った遼太郎は、きっとあの腕でその彼女を抱きしめ、……みのりも知っているあのキスをその彼女と交わし、そしてきっとその先のことも……。