Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
みのりの鳩尾が、切なさにキュッと絞られる。
けれども、それは大学生ならば当然のことだ。当のみのりも大学生の時にそんな経験を積んできたからこそ、遼太郎もそうするべきだと思って、あの時別れを選んだ。
だからこそ、今ここで長居をしてはいけない。明るい未来が拓けている遼太郎に、後ろを振り向かせて立ち止まらせてはならない。
子どもの頃の淡く純粋な恋の思い出――。遼太郎にとって自分は、そうなるべきなのだと、みのりは自分に言い聞かせた。
「お待たせしました。」
遼太郎はコーヒーが入ったマグカップを、みのりの前のローテーブルの上に置いた。
「ありがとう。」
みのりはそう応えながら、マグカップを手にすると一口コーヒーを飲んで、心に決める。このコーヒーがなくなったらこの部屋を出て、遼太郎の前から姿を消そうと。
コーヒーを飲むみのりを見て、遼太郎は肝心の話をしなければと思った。
だけど、今、それを切り出したら、楽しく会話をすることはできなくなる。いざとなると適当な言葉を見つけられず、頭の中が焦りでいっぱいになる。
言葉で伝えられないのならば、いっそのこと抱きしめてしまいたいとも思ったが、ニコニコと微笑みを浮かべて〝先生〟という仮面を被っているみのりに対して、元〝生徒〟の遼太郎は手を伸ばすことさえ出来なかった。