Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
将来に対する打算もなく、何の見返りも求めず、ただただ純粋に心の底から好きだった人だ。こんなふうに人を好きになることなんて、もう二度ないだろう。
今でも、こうやって側にいるだけで想いはどんどん深まって、抑えきれなくなってくる。もうこれ以上ここにいては、〝先生〟ではいられなくなる。
マグカップのコーヒーを飲み干したみのりは、帰る決心をした。帰るといっても、まだ飛行機の時間までは半日以上もあるけれど、みのりは一刻も早くここを出て行かなければならなかった。
「それじゃあ、私はこの辺で。お邪魔しました。」
そう言って立ち上がったみのりを見上げて、遼太郎がその表情をこわばらせる。
その顔を見てしまった瞬間、みのりの決心が鈍ってしまう。けれども、振り切るように一歩踏み出したとき、焦っていたみのりはローテーブルにつまずいた。
辛うじて倒れずに済んだものの、その拍子に、遼太郎の使っていたマグカップが跳ねて、残っていたコーヒーが飛び散り、敷かれていたラグを汚してしまった。
「ああっ!!」
みのりはぶつけた足の痛さも忘れてとっさにひざまずき、バッグからハンカチを取り出した。
「先生、大丈夫です。俺が拭きますから。」
遼太郎も素早く動いて、手近なところにあったタオルを持ってくると、ラグを擦るように拭き始める。