Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
いつもならば、みのりの相変わらずのドンくささを笑うところだけれども、二人にはそんな余裕はなかった。
遼太郎の側にたたずんで、その手元を見つめていたみのりは、突然、何も言わないまま逃げるように身を翻した。
張り詰めている気持ちが今にも弾けてしまいそうで、これ以上この部屋の中にいることはできなかった。
みのりの行動に気づいた遼太郎は、顔を上げてタオルを投げ捨てた。大股でみのりを追いかけて、その前に回り込み、今まさにみのりが出て行こうとしていたドアの前に立ちふさがった。
「まだ……、帰らないでください!!」
血相を変えた遼太郎が、切迫した声で懇願する。行く手を阻まれたみのりは、無言のまま理由を問う目で遼太郎を見上げた。
「まだ、何も大事なことを話せてません。」
〝大事なこと〟とは何なのか……。それを知るのが、みのりは怖かった。だからこそ、できるだけ冷静に、みのりは〝先生〟という仮面をかぶり続けた。
「だって、狩野くんもこれから用事があるんでしょ?学校には行かなくていいの?」
「用事なんてありません。学校は今、秋休みだし。」
「でも、もう失礼するわ。私、行きたいところがあるし。狩野くんもせっかくのお休みなんだから、友達や彼女と遊びに行ったらいいじゃない。」
「……彼女?」
遼太郎がみのりの言葉の一部に反応して、眉間にしわを寄せ、首をかしげる。