Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
きっと、みのりと遼太郎が別れを惜しむ一部始終を目撃してしまったのだろう。陽菜の表情には、昨日見せてくれたように輝くような明るさはなく、かと言って怒りも悲しみもない。ただその顔をこわばらせている。
目の前に直面した出来事に対して、遼太郎も息を呑んで一瞬固まってしまう。しかし、すぐにみのりへと視線を戻して、改札越しに投げかけた。
「先生。飛行機に間に合わなくなるから、行ってください。」
「……でも。」
みのりは突然のことに動転していて棒立ちになり、冷静な思考ができていなかった。それでも、こんな状態を放って自分だけが立ち去ってしまうことは、ためらわれた。
「大丈夫です。これは俺がきちんとすることです。先生は、行ってください。」
遼太郎の真っすぐな目で、強く真剣に見つめられて、みのりは頷くしかなかった。もう陽菜のことを心配して確かめるような心の余裕はなく、体を翻してまるで逃げるようにホームへ向かって走り出した。
みのりがちょうど到着していた電車に乗り込むと、間髪入れずにドアが閉まり発車する。
電車に揺られながらドアにもたれかかると、自分の体が芯から震えているのを感じた。ドキンドキンと心臓が激しく鼓動を打っているのは、走って飛び乗ったからだけではなかった。