Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 大学で接する遼太郎は、陽菜をはじめ周りの女の子たちにも興味を示さず、過去に彼女がいたなんて嘘みたいに硬派で、恋愛とは無関係に見えた。

 その遼太郎が、一人の女性をその懐深くに抱擁し、愛おしそうに頬を撫で、優しく涙を拭ってあげていた。寸暇を惜しんで寄り添って、その手を離そうとはしなかった。

 それは、陽菜の知らない遼太郎だった。あれだけ日常の時間を遼太郎と一緒にいたのに、そんな遼太郎は想像することさえできなかった。
 みのりを見つめる、あの遼太郎の深い眼差し。
 その心の中に、そこまで深く情熱的なものが存在し、その想いのすべてを捧げる恋人がいたなんて……。その恋人が、昨日も陽菜の恋の話に耳を傾けてくれていたみのりだったなんて……。


「……分かりました。狩野さんが風邪ひいてたんじゃなくて、よかったです。」


 陽菜はそう言うなり、踵を返した。


「あっ、長谷川!?」


 遼太郎が声を上げる間にも陽菜は走り出し、駅の構内を行き交う人々の間をすり抜け、その姿を消した。

 説明と言えるものは何もできないまま、陽菜は行ってしまった。みのりにも『きちんとする』と約束したけれども、陽菜に自分たちのことを理解してもらうのに、これでは不十分だろう。


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