Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 陽菜を見失う前に追いかけていって、誠意を尽くして説明すべきだったのかもしれない。けれども遼太郎の中には、そこまでする原動力がなかった。


――長谷川のことなんて、もうどうでもいいじゃないか……。


 最初にきっぱりと断っているのにも関わらず、勝手に一方的な想いを押し付けてきていた陽菜に対して、煩わしさを感じていたのも確かだ。
 いちいち説明しなくても、あの場面を目の当たりにして、陽菜が抱いた認識は間違っていない。それで、陽菜が傷つくとしても、それは自業自得だ――。

 と、そこまで考えが至って、遼太郎は最後の部分を打ち消した。みのりは陽菜に嘘をついていたことを、なによりも気に病んでいた。陽菜に少しでも理解してもらえるよう言葉を尽くすことが、みのりの心の負担を軽くすることにもなる。
 遼太郎はみのりのためにも、秋休みが終わり大学が始まってから、一度陽菜と話す機会を持とうと思った。


 遼太郎は一つ大きく息を吐いて、自宅へと足を向けて動き出した。みのりと一緒の道程は、ぐるっと回り道をして駅にたどり着いたのに比べ、帰り道はずいぶん近かった。

 一人で鍵を開けて入るアパートの部屋は、いつもと変わらず、先ほどまでここにみのりがいたことは、また自分が思い描いた儚い妄想のような気がしてくる。


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