Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
でも、いつ帰ってくるか分からない遼太郎を、この部屋の前でずっと待っているわけにもいかない。
みのりは涙を拭って、トボトボと歩き出した。今日の宿も探さなければならず、途方にくれながらアパートの階段を一つひとつゆっくりと下りていく。
するとその時、階段を上ってくる人影が視界に入ってきて、みのりの感覚が敏感に反応した。
疲れた感じで、一歩一歩踏みしめるように上がってくる重い足どり。その足は、みのりの存在に気がつくと、不意を突かれたように止まってしまった。
「…………先生?」
階段の下からみのりを見上げる遼太郎の表情は、信じられないものでも見ているようだ。
「どうしてここに?」
目を丸くしている遼太郎は、問いかけながら階段を駆け上がってくる。それを聞いてみのりは、自分がここにいる不自然さを改めて自覚した。
「……あのね。私、やっぱり心配になって。……陽菜ちゃんのこと。」
みのりはその不自然さをごまかすように、頭の中のほんの片隅にしかなかった陽菜のことを、取って付けたような口実にした。
『会いたかった』と言えば良かったのに、こんな時やっぱり〝先生〟という立場から抜けられず、素直に甘えられない自分がいる。
遼太郎は、〝陽菜〟という話題をいきなり持ち出されて、その表情に影を帯びさせた。