Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「ああ……、長谷川のことは。心配するようなことは何もありません。」
少し不機嫌そうな声色で答えながら、部屋に向かって先を歩く遼太郎の背中を見て、みのりはホッとするより不安になる。
疲れて帰ってきた遼太郎。それなのに、何も考えずこんなふうに押しかけてきてしまって、遼太郎は迷惑だったのではないかと……。
「どうぞ。」
遼太郎はドアの鍵を開けて、部屋の中へと迎え入れてくれたが、いつもの笑顔を見せてくれない。気まずさのあまり、みのりは何か楽しい話題を持ち出したいと思ったけれど、口から出てきたのは、やっぱり陽菜のことだった。
「陽菜ちゃん、なんて言ってた?泣いたりしてなかった?」
居間の照明を点け、簡単に片づけている遼太郎に向かって、畳みかけるように質問をしてしまう。
遼太郎はそう問われて、陽菜が何も聞き入れようとしなかった不愉快な出来事を思い出した。
「長谷川は、泣いたりするようなヤツじゃありません。」
「でも……、陽菜ちゃんにはきちんと謝った?」
追い打ちをかけるようなみのりの問いを聞いて、遼太郎はピクリとその動きを止めた。
陽菜には、『ごめん』の一言も告げていなかった。〝謝るようなことは何もしていない〟という考えに囚われて、遼太郎も意地になってしまっていた。その一言を最初に言っていれば、陽菜も素直に話を聞いてくれていたかもしれない。