Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「……きゃ……!?」


 ドアを開けた瞬間に〝何か〟がぶつかってきて、みのりはかすかな声を上げる。
 その次の瞬間、みのりの左の二の腕に熱く貫かれるような痛みが走った。


 みのりが来客の応対に出た玄関から、何の気配も感じられない。そのことに遼太郎が気がつくのと、


「……遼ちゃん……。」


と、みのりが呼ぶ弱々しい声が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。

 その声色に不審さを感じ取った遼太郎が、ベッドからその身を跳ね上げさせる。自分がどんな格好をしているかなど考える余裕もなく、居間のドアを開けると、玄関に通じるキッチンの光景が目に飛び込んできた。


 左腕を右手で押さえて、うずくまるみのり。
 その右手の指の間から、鮮やかすぎる赤いものが止まることなく溢れ出している。


「――先生!!?」


 遼太郎が目を剥いてみのりの側に跪くと、みのりは痛みに耐えながら遼太郎に訴えかけた。


「……先に、陽菜ちゃんの手にあるものを取り上げて。」


「……え?」


 訳が分からず動揺しながら、遼太郎は玄関のドアを振り返る。するとそこには、ペティナイフのような小さな刃物を両手に握りしめ、その切っ先をこちらに向けている陽菜が立っていた。


「……!!」


< 670 / 775 >

この作品をシェア

pagetop