Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
声にならない驚きとともに、遼太郎は反射的に動いて、陽菜の手にあったナイフを叩き落とす。
虚ろだった陽菜がその衝撃でハッと我に返り、下着姿の遼太郎に視点を定めると、遼太郎はそんな陽菜の様子を窺いながらナイフを拾い上げて、冷蔵庫の上にそれを置いた。
そして遼太郎は、再びみのりへと向き直って跪く。おびただしい量の血液がみのりの腕を伝って落ちて、それを見た遼太郎はパニックになった。
「先生、この血を止めないと……!」
早く止めてあげないと、みのりが死んでしまう…!直感的にそんな恐れを抱いた遼太郎は、クローゼットの中からありったけのタオルを出してきた。
みのりはタオルの上からギュッと力を込めて圧迫して、止血を試みる。そして、その場にいてタオルで血を拭うばかりの遼太郎に、努めて冷静に声を振り絞った。
「遼ちゃん、救急車を呼ばなきゃ。『私と陽菜ちゃんが二人でお料理してて、誤ってぶつかって怪我した』って説明するのよ?」
「……え?」
あからさまな〝嘘〟を聞いて、遼太郎が聞き直した。
「これを〝事件〟にしちゃダメ。……とにかく救急車呼んで。」
「……は、はい。」
遼太郎は深く考えることもできず、ぎこちなくうなづいてから立ち上がって、スマホのある場所まで走った。