Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
みのりのこの反応を見て、遼太郎はクスリと笑いをもらした。
「上手いか下手かが判るんだから、先生はやっぱりたくさん経験を積んでるんですね。」
みのりは火照った顔を両手のひらで押さえながら、運転する遼太郎を見遣った。
「たくさんかどうかは知らないけど、昔のことは忘れたわ。」
実際、今日の遼太郎のキスは、みのりの中にあった過去のキスの記憶を上書きしてしまっていた。
それに、今はそんなふうに遼太郎のことしか見えていないのに、以前付き合った男のことなど思い出したくもない。
過去のことに思いを馳せると、自己嫌悪にも似た感覚になり、みのりの胸の中に、小さな影が沈んでいく。
遼太郎の純粋さに比べて、自分はなんて擦れているのだろう……と。
「でも、初めてキスしたときのことは、忘れられないと思いますけど?」
みのりがトボけて、話をはぐらかそうとしているのを察知して、遼太郎はそう言って食い下がってくる。
確かに、そう言われて記憶を呼び起こすと、初めてのキスは今でもはっきりと思い出せる。
「大学生になって、初めて彼氏という存在が出来てね。彼の部屋に遊びに行った時に…ね。でも、その時は、気持ち悪いって、思っちゃった。」
緊張して閉ざした唇を、何度も舐められた感触は、思い出すたび身の毛がよだつ。