Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 それだけで、遼太郎は十分だった。自分のこの想いを、みのりがしっかりと受け取って、その心の一番大切な場所にしまい込んでくれたと思った。


「さ、先生は眠ってください。俺、ずっとここにいますから。」


 遼太郎はいつもの優しい微笑みを見せて、みのりの腕を掛布の中へと仕舞った。


「うん。でも、遼ちゃんも眠らなきゃ。」


 心配そうに、みのりがそう言うのを聞きながら、遼太郎はいっそう笑ってみせる。


「大丈夫です。俺はいつでも寝れますから。先生が眠るまで側にいます。」

「……うん。」


 みのりは素直にうなずいて、目を閉じた。寝たふりでもしないと、遼太郎もいつまでも眠ることができない。


 病室の中を静寂が立ち込めて、お互いの息遣いだけが耳に届いてくる。
 未だ残る鎮静剤のせいで、意識は次第に眠気を帯びてくる。思考は安らかな虚無の中を漂い始め、心も落ち着いて、自分にもそれが見極められるようになる。


「……遼ちゃん。」


 眠りに落ちる前に、不意にみのりが口を開いた。
 枕元でみのりの寝顔を見つめていた遼太郎は、視線を合わせて和ませるだけで、返事の代わりにした。


「……ありがとう。私、こんなふうにきちんと『愛してる』なんて言われたの、生まれて初めてよ……?」


 そんなみのりの言葉を聞いて、遼太郎はほのかに顔を赤らめた。〝生まれて初めて〟というフレーズが、遼太郎の心を甘くくすぐった。


< 690 / 775 >

この作品をシェア

pagetop