Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 遼太郎は自制心を保つために、思わず立ち上がった。素直に見上げるみのりに対して、


「なにか、飲み物……。先生、何がいいですか?」


と、自分の少し不自然な行動の説明をする。すると、みのりは、遼太郎のそんな心の中の葛藤を知る由もなく、花の咲くように笑って、


「お水以外に、何かあるの?」


と、この前来た時と同じことを言っておどけて見せた。


「それじゃ、お水でいいんですね?」


 遼太郎もおどけて切り返すと、みのりはまた面白そうに声をたてて笑った。


「ウソウソ。お水じゃなくて、コーヒーがいい。病院じゃ飲めなかったから、カフェイン欠乏症なのよ。もう、遼ちゃんの顔も、コーヒーカップに見えるわ。」


 それを聞いて、遼太郎も思わず笑ってしまう。
 大変な目に遭ったにもかかわらず、そんな辛さは少しも見せずにこんなふうに笑顔にしてくれるみのり。一生懸命に元気づけようとしてくれていることがいじらしくて、遼太郎は本当に愛おしく思った。


 みのりは、キッチンへと向かった遼太郎の背中を見つめながら、笑いを収めて唇を噛んだ。自分を見つめる遼太郎の目の、憂いを含むようにとても切ないことに、心が痛んだ。


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