Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
着替えをして通学の準備をしている遼太郎に、『行かないで』という言葉だけは言えない。もし言ってしまうと、優しい遼太郎はみのりをなだめるために、『行かない』と言い出すかもしれない。
今の遼太郎にとって一番大事なことは、大学へ行くこと。何があっても、遼太郎にはきちんと学業を修めてほしい。
「それじゃ、先生。お昼ご飯は、昨日のハンバーグの残りでハンバーガー作ってますから、それを食べてください。コーヒーやお茶も自由に飲んでください。俺の部屋のパソコンとかも自由に使ってくれてもいいですけど、まだ出歩いたり無理はしちゃダメですよ。」
玄関先まで出てきて遼太郎を見送るみのりに、遼太郎はまるで世話女房のような言葉をかけてくれる。みのりは笑顔を作って頷いた。遼太郎もその笑顔を見て頷くと、背を向けて出かけて行った。
こんな不安を抱えながら、遼太郎を大学に送り出さなければならないなんて……。
居間に戻ってきたみのりは、その真ん中で力なく座り込んだ。
『私が生きてる限り、私は何度でも遼ちゃんの盾になるから。』
あの時、陽菜に断言したように、本当は遼太郎に付いて行って、片時も離れず側にいて彼を守りたい。でも、それは実際には不可能なことで、それどころか、今の自分はこうやって守られてばかりで何もしてあげられない。