Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜




「遼ちゃん……。」


 計り知れない不安と無力感ともどかしさと……。それらに圧し負けて、みのりは涙をこぼした。

 ここで泣いていても、何も遼太郎のためにはならないことは分かっている。けれども溢れてくる涙は、遼太郎への切ない想い相まって、しばらくみのりの頬を濡らし続けた。


 泣き疲れて、ぼんやりとしているうちに時間が過ぎていき、気がつくと昼下がりになっていた。
 食欲は全くなかったが、作ってくれている昼食をきちんと食べておかないと、遼太郎が心配する。みのりはキッチンでコーヒーを淹れると、きれいにラップされているハンバーガーを居間まで持ってきて、独りでそれをかじった。


 そしてまた、することがなくなると、暗い雲のような不安が立ち込めてきて、またみのりの心を圧迫し始める。

 こんな不安に苛まれるのならば、やはりきちんと警察に届けるべきだったのかもしれない……。もしあの時、遼太郎が刺されていたのならば、陽菜に罪を償わせるために、みのりは迷わずその手段を選んだだろう。

 でも……、いろいろ考えた末に、やはりそうしなくて良かったと、みのりは思った。
 警察に届けると、大学の方にも事件のことが知られてしまう。物事が大事になり、遼太郎も警察や大学から取り調べを受けて、少なからず責任を問われるだろう。延いては、この事件が遼太郎の就職活動の障害になる可能性もあるかもしれない。


< 726 / 775 >

この作品をシェア

pagetop