Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
居間の方までコーヒーの芳しい香りが漂い始め、しばらくしてから、みのりがコーヒーカップを手に居間へと戻ってきた。
「ありがとうございます。」
遼太郎はカップを受け取り、一口飲んだ瞬間、
「……あ!」
その味が、いつも自分が淹れるものと違うことに驚いた。その表情の変化を見て、みのりも満足そうに笑みを含む。
みのりも自分の分のコーヒーを持って、遼太郎の隣にやってくる。そして、そこに腰を下ろすと、そっと自分の体を遼太郎に預けるように寄り添った。
こうやってくっ付いてると、お互いの体温がじんわりと伝わってくる。
漂うコーヒーの香り、みのりの息遣い。それらを感じながら、遼太郎はパソコンのキーをたたく指を動かし始めた。
そんな遼太郎を、隣にいるみのりはじっと黙って見守った。遼太郎の横顔。まっすぐに前を向く、優しい切れ長の目。
「……こうやってると、遼ちゃんが高校生のとき、渡り廊下で個別指導をしていたことを思い出すね……。」
沈黙を破ってポツリと出てきたみのりの言葉に、遼太郎は同意するように穏やか眼差しを返してくれる。
あの時は、どんなに想いが募っていても、どんなに近くにいても、ただ見つめるだけだった。こうやって触れ合って、体温を感じ合えることなんてできなかった。
でも、この胸の鼓動だけは……、見つめているだけで切なくなるこの響きだけは、今もあの時と少しも変わっていなかった……。