Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
20枚の束の採点をし終わったら、今度は別の教員にそれを渡し、採点のミスがないか確認する。その確認は二度ほど行われて、万全が期される。
論述問題を担当しているところは、なかなか作業がはかどらないが、記号問題のところは早々に終わってしまうらしく、次に答案が回ってくるまで、江口たち教科外の教員たちは暇そうにしている。
採点の合間一息つくために、みのりは席を立って、飲み物のある教室の隅へと向かった。すると、そこには飲み物を選んでいる江口がいた。
意識しないようにはしているつもりだが、思わず身構えてしまうのが、みのりは自分でも分かる。席に引き返すのは、あまりにも不自然なので、そのまま江口の横へと立った。
「仲松さん、何飲む?」
数本置かれたペットボトルを指さして、江口が尋ねる。不意を突かれて、みのりは息を呑んで固まった。
「……取って食ったりしないから、そんな顔しなさんな。」
江口にそう言われて、自分の反応を顧みて申し訳なくなった。
「…ごめんなさい…。」
小さくなるみのりを見て、江口は薄く笑って息を抜いた。
「何飲む?」
と、もう一度同じ問いをされて、
「あ、お茶をください。」
と、みのりはぎこちない笑顔を作った。