Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 試合の後の遼太郎からは、いつものように土埃と汗と太陽の匂いがする。

 みのりの頬から涙が滴って、背中から回される遼太郎の腕に落ちた。
 遼太郎の腕の肘には、先ほどの練習試合で負った擦り傷があり、みのりは自分の涙の雫とその傷を、少しの焦りを伴いながら、しばらく見つめていた。



「先生…!」


 絞り出すように声を発し、遼太郎がようやく反応を示す。みのりの返事を待たずに、抱きしめる腕にはいっそうの力がこもった。



「俺…、大学なんか、東京なんか…行きたくない。ずっとこうして、先生の側にいたい…!」


 こんなふうに泣くみのりを置いて東京へ行くことを考えただけで、遼太郎は感情がかき乱されて、気が狂いそうになってしまう。 

 何よりも、こんなに愛しい人と何日も何年も離れているなんて、堪えられない。
 いつでもみのりに、こうやって触れてキスのできる場所に、そして悲しみを分かち合えて、苦しみから守ってあげられる距離に、遼太郎は居続けたかった。


 耳元で囁かれた遼太郎の言葉に、みのりの息が止まる。

 みのりを深く想うがゆえの遼太郎の言葉は、みのりを喜ばせるよりも困惑させた。


「…遼ちゃん…?!何を言ってるの…?」


 みのりの声は、か細く震えていたが、その響きには戒めが含まれていた。


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