Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 ほのかに甘かった空気が、その一瞬で流れ去っていく。
 みのりが恋人から恩師へと立場を変化させたことを、遼太郎は感じ取っていた。

 
「遼ちゃん!片付けが始まった。みんなが道具を片しに、部室にくるぜ!!」


 戸口のところから、二俣の声が響き渡った。
 ハッとして、遼太郎はみのりを抱擁する腕を解き、みのりも自由になった両手で濡れた頬を拭う。

 泣いていた風なみのりに気がついて、二俣が心配そうに真顔でみのりを見つめている。
 みのりは遼太郎から視線を逸らしたまま下を向き、二俣の横をすり抜けて部室を出て行った。


 おにぎりを入れてきた大きなタッパーを洗う、マネージャーのもとに向かいながら、みのりは胸の鼓動がどんどん大きくなるのを感じていた。

 先ほどの遼太郎の言葉が耳に残って、いつまでも響いている。恐怖にも似た感覚に襲われ、みのりはあからさまに動揺していた。


 そして、遼太郎があんなことを言い出した理由を考え始める。
 もともと影を帯びているみのりの心は、考えられるその理由によって、もっと闇を濃くしていく。


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