Dear…
-お父さん!-

そう言って、幼い少年は男に縋るように腕を伸ばす。
男はその細くか弱い指先が触れぬ間に、さっと身を翻しどこかへ歩いて行った。
後には泣き虫な少年が独り。
ぽつーんと立ち尽くしているだけ。
嗚呼そうか、どこかで見た覚えがあると思ったら…。
これは僕じゃないか。まだ十歳の誕生日を迎えるには一季節早かった。
何も変わらないまま、体だけが成長し、精神が大人に近づくことばかりを周りに求められた。

-何故?何故子供のままではいけないの?-

そう、何故?僕はまだ十歳にもなっていなかったっていうのに。


幾季節か過ぎて、僕は十八になった。
そして、僕の生涯はここで終わる。
街を横切る赤レンガに淡い桃色が散っていく。
後ろで鳴った鐘の音で、飛び立つ鳩達に誘われるようにして、僕も其処から飛び出した。

当然僕の体は鳩達のように風を切り、空を飛ぶことはなく。
ただただ、下に引っ張られるだけ。
体中から嫌な音がして、赤レンガの上で見た景色は僕が求めたものそのものだった。
空を行く白い鳩達、淡い桃色の花びら、蒼く澄んだ空。
見えたのは一瞬。
後はもう、何も解らなくなった。
最初は熱かった体も今は痺れてるみたい。

-嗚呼、僕が消えていく…-

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