Dear…
ー細波書店ー

そう記された木製の看板を見上げて、絆はほっと息を吐き出した。

「やっと着いた。」

そう呟いて、ふと手元の封筒に視線を移す。
グラスグリーンの瞳を僅かに伏せて、絆はその手紙の差出人の事を思い出していた。

名もない孤島に打ち上げられていた、二つの亡骸。
傷み、その原型を失いつつも、強い思いを残していた。
今は亡き誰かの親愛なる存在。

今まで何通もの手紙を何人もの人間へと届けた。
自分とは縁の無い、思いの詰まった、最後の言葉。

絆は、不意に自らの中に込み上げる熱く疼く感情に僅かに息を詰まらせた。
言い表すことが出来ないその感情を、持て余した絆は、その場に茫然と立ち尽くしていた。
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