Dear…
「絆(ハン)、手紙はしっかり届けてくれたかい?」

水面に映る満月を、投げられた小石が滲ませる。

「うん。」

少年-絆は静かに頷いた。

「何だか嬉しそうだな。何か良い事でもあったのかい?」

シュウに言われて、絆はにっこりと微笑んだ。

「うん、まぁそんなとこ。」

絆の笑顔を見て、シュウも僅かに微笑む。

「さて、行こうか。」

鼻をすんと鳴らして、シュウが歩き出す。

「シュウはよく鼻が利くね。」

絆がまじまじとシュウを見る。
「それはまぁ…」

シュウがふふっと笑う。

「そうか、名前がシュウだから最期の匂いが分かるのか」

絆が納得したように呟いた。

「逆だ。最期の匂いが分かるから、シュウと呼ばれるようになった。」

シュウが歩く足を休めずに言う。

「へぇ、じゃあ最初は何て呼ばれてたの?」

絆がシュウの横に並んで歩きながら聞く。

「さぁ、どうだったか…」

ぼんやり遠くを見つめるシュウを見て、絆は苦笑いをする

「覚えてないのね…」


-それはいつの事だったか。

誰かを思って迎える「最期」に自分は恋い焦がれた。
「最期」を迎える誰かが、大切な誰かを思って静かに「最後」の呼吸をし終わる時をとても美しいと思った。
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