あの日のきみを今も憶えている
「前に、一度訊いたよね。どうしてここまでするのか、って。あの時は、なんていい子なんだろうって思った。なんて、心の綺麗な子なんだろう、って」


穂積くんの胸元に顔が押し付けられる。


「でも、ここまでくると、馬鹿だよ。自分の想いを押し隠してまで、ずっと二人を繋げようとしてたなんて。一体どこまで、やるの」


私の体を抱く腕に、力が籠められる。
余りの強さに、息苦しさを覚える。


「君は、杏里と美月ちゃんさえ望めば命さえ差し出してしまいそうで、怖いよ」

「違う! 私はそんな……そんなんじゃない!」

「違うこと、ないでしょ。杏里が幸せならそれでいい、なんて言っておいて」


穂積くんは私を抱きしめる腕を緩めない。もがいても、ぴったりとくっついた体は離れることはなかった。


「ねえ、ヒィちゃん。今すぐ俺のこと見て。俺のことだけ考えて。俺は、君が好きだ。大好きだ」

「な……何言ってるの! 今、それどころじゃ」

「今だから、だ。俺のことだけ、考えて」

「ふざけないで!」


逞しい腕から必死で抜き出した手を振り抜いた。穂積くんの頬を打つ。


「こんな時にふざけないで! 美月ちゃんの様子がおかしいの! こんな風に話の途中で眠りに落ちることは、今まで一度も……!」

「……美月ちゃんが死んで、何日経ったと思う?」


頬を押さえた穂積くんが言った。虚を突かれて、言葉に詰まる。


「え?」


「美月ちゃんが死んで、今日で四十五日目だ」

「な、なに……?」


言っている意味が分からない。
だけど、なぜか怖い。
知ったらいけないことを、穂積くんは口にしそうな気がした。


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