あの日のきみを今も憶えている
穂積くんは、私を真っ直ぐに見ながら続けた。


「四十九日。
死者は、四十九日経ったら、行く場所が決まるっていう話、聞いたことない? もしそれが本当なら、美月ちゃんはあと四日しか、この世界に留まっていられない」

「は……?」

「この世界に弾きだされそうになっているから、眠る。そう考えたら、美月ちゃんの睡眠時間の度合いが増していることにも納得がいく。この世界から離れる準備なんだって」

「なに、言ってるの……」


声が震える。
膝をついたままだった私は、その場にへたりこんだ。


「嘘、でしょ」

「俺の勘違いだったら、それでいい。だから、言い出せなかった。だけど、なんだかおかしいのは、ヒィちゃんも気づいてるよな」


私の前に膝まづいた穂積くんが、俺は、と続ける。


「タイムリミットはあと四日なんじゃないかと、考えてる」

「四日⁉ たった?」


震える。首をぶんぶんと横に振った。
そんなことない。
美月ちゃんは、もっとここにいられる。
私と、みんなと一緒に居られる。
だけど、もしかしたら、と思ってしまう。

もし、美月ちゃんがいなくなったら。
また、消えてしまったら。


「やだ! 嫌だ! 美月ちゃんはずっと、私と一緒にいるんだもん!」

「そんなことできるわけないって、分かってるだろ?
ヒィちゃんはこの先、結婚しても、子供ができても、美月ちゃんといられると思う?
できないだろ。これからの君の人生が、君の物じゃなくなる!」

「私はそれでも」

「それでもいいって言いそうだから、俺は怖いんだって!」


穂積くんが叫ぶ。その激しい声にびくりとする。


「自己犠牲も度が過ぎるんだ!」

「……っ!」


「そして、そんなこと出来るわけないんだ! 終わりがあるって、そこはもう、どうしようもない事実だ」

「終わる、なんて……」


言葉を失う。
喉がからからに乾いていた、


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