あの日のきみを今も憶えている
ぎゅっと唇を結ぶと、穂積くんが戸惑った顔をして、「ごめん」と言った。


「俺だって言いたいわけじゃない。だけど、目を逸らしてどうするの。心の準備も何もなく、彼女と……別れを告げるの?」

「やだ……やだよ。私、離れるのやだ」


こんなにも、仲良くなれたの。
たくさん、笑い合えたの。

毎晩、美月ちゃんとおやすみを言って眠るのは、楽しかったの。
嬉しかったの。

たくさん話をして、笑い合って。
そんな時間があと僅かなんて、嘘でしょう?
私たちの時間はもっともっと。きっと、永遠にあるんでしょう?


「私、もっと一緒にいたい……!」


私たちは、まだ仲良くなれる。
そう、分かっているのに。
なのに、こんなのって、ない……。


「ああ、俺だって、そう思うよ。じゃあ、奇跡をどうやって起こす? 美月ちゃんが生き返る未来は……どうあがいても、ない」

「……っ!」


嫌だと叫んだ声は、声にならなかった。


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