あの日のきみを今も憶えている
美月ちゃんが目覚めたのは、真夜中のことだった。


「ん……、あれ。ヒィ?」

「起きた?」


私は、机に座って、壁にかかる『エトワール』を眺めていた。
カーテンの隙間から差し込む月の光の中で、たおやかな踊り子が舞っている。


「あたし、寝てたんだね」

「うん」

「そっか」


床に寝ていた美月ちゃんは、ゆっくり体を起こす。
それからふるりと頭を振って、ため息をついた。


「話の途中で寝ちゃった、んだっけ」

「うん」

「そっかそっか」


起き上がった美月ちゃんは、その場で膝を抱えて座った。
机の前にいる私を見上げる。
私は、そんな彼女を見つめた。
少しだけ、見つめ合う形になる。


「言いたいことがあるのね、ヒィ。そんな顔してる」

「……穂積くんが、言うの」

「うん?」

「ミィには、タイムリミットがあるんじゃないか、って」


声が少しだけ震えた。


「四十九日。それがこの世に居られる期限かもしれない、って」


もし、穂積くんの言う通りならば。
美月ちゃんとは一緒にいられるのはあと僅かしかない。

そのことに目を逸らして、見ないことにはできない。
失ってからでは、遅すぎる。
美月ちゃんが、ふっと視線を逸らす。


「そんなこと、ないよね。ミィ」

「……その話か。うん、あたしも、そう思ってる。多分、穂積くんの言う通りだ」


足元から、何かが崩れ落ちていく音を聞いた。
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