あの日のきみを今も憶えている
実は、園田くんは釣りが好きなのらしいと、すぐに知った。
手慣れたようにルアーをつけ、ひゅんと音を立てて釣竿を振った。
そんな彼の横には、ちょこんと美月ちゃんが座っている。


「おっきいの釣ってね、あーくん」


なんて言っている様子を見ていると、二人で釣りに行くこともあったんだろうなと思う。


「園田くん、美月ちゃんがおっきいの釣ってね、だって」

「おうよ。任せとけ」


腕まくりをした園田くんが両手で釣竿を持つ。
美月ちゃんが「頑張れ!」と声を上げた。


「穂積くんは、釣りをしたことある?」

「あるよ。杏里と一緒に行くこともあるし」

「ほう」


見れば、穂積くんの手つきも慣れたものである。
男の子というのは、どこで釣りなんてものを覚えるんだろう。
私たちの住む町はそんなに大きな川もないし、海からも遠い。
釣り堀、はあるのかどうかも分からない。

そんなことを男の子二人に訊くと、「女がお菓子作りを覚えるようなものじゃない?」と返された。
あの、私、クッキーとか作れませんけど?
しかし、そんなことは言わずに、「へえ、そんなもんか」と呟くに留めておいた。
私がお菓子を作れないと知っている美月ちゃんは、クスクスと笑っていた。


それから何度か、美月ちゃんと短く体の交換をしながら釣りを楽しんだ。
私たちは、一匹も釣れなかった。

しかし、男の子二人はびっくりするくらいひょいひょいと魚を釣り上げる。
そうして、どちらの魚が大きいか、言い合いをするのだ。


「俺だろ、これは」

「さっき俺が釣ったやつが一番デカい。これは揺るぎないね!」

「はあ? それなら俺が二回目に釣ったほうのがデカいだろ」

「穂積はそれバラしただろ。釣り上げてなければ無効だ」


子どもの顔つきで口げんかをする二人は、見ていてとても楽しい。
私と美月ちゃんは顔を見合わせて笑った。

< 177 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop