あの日のきみを今も憶えている
「くっそ。穂積に負けた! コンマ三秒だったのに!」

「ふはは。バス釣りの雪辱は、果たした!」


汗だくで笑う二人は、驚くことにもう一回やると言って、私たちを置いて走って行った。


「……アホだ、あの二人」

「あはは、おかしい。あーくんったら、あんなにむきにならなくってもいいのに」


遠くで、サルのように動く二人がコミカルで面白い。
しかも、動きが回りと全然違う。
二人を見ていたら、私だってひょいひょいとこなしていけそうな気がしてしまう。

まあ、私は小学生用の網も乗り越えられないんですけど。


「あ! みて、ヒィ。あーくんったらあんなところにぶらさがってる!」

「うわ、あの動き、本物のサルだ……」


美月ちゃんが体を折って笑う。
そして、涙の滲んだ目尻を拭う。


「楽しいね、ヒィ」

「うん。すごく楽しい。私、笑い過ぎてヤバいくらい」


額の汗を拭って、遠くの二人を見る。
夏の日差しを受けた二人の顔は生き生きとしていた。
美月ちゃんは眩しそうに目を細めて、笑った。


「ねえ、ミィ。園田くんに言わなくても……」

「いいの、これで。だってあたしは、あーくんのあの笑顔が好きなの。影のない、太陽みたいな笑顔が好きなの。曇ったとこなんて、今は見たくない」


はっきりと言われて、私は「そっか」と口を閉じる。


「だから、曇った時は」

「え?」

「曇った時は、ヒィや穂積くんが、晴らしてあげて欲しい」


美月ちゃんは二人を見つめながら言った。


「あーくん、あれですごく不器用だから、甘えるの下手だから、簡単に弱音吐き出せないと思う。
でも、穂積くんやヒィになら、きっと大丈夫だと思うの」

「ミィ……」

「聞いてあげて、受け入れてあげて。あたし、それを頼めるの、二人しかいない」


美月ちゃんが、私を見た。
その視線に、笑みはなかった。


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