あの日のきみを今も憶えている
美月ちゃんが寝ている間に、私と穂積くんで皿洗いをした。
園田くんは、リビングの片づけをしてくれている。


「……大丈夫?」


洗い終わったお皿を布巾で拭きながら穂積くんが言う。私は、こくんと頷いた。


「大丈夫。ありがとう」

「これだけ楽しいと、次もきっとこんな風に過ごせるって、思うよな」

「うん。すごく楽しい」


四人で過ごす時はなんでこんなにも楽しいんだろう。
永遠に続けば、いいのに。


「でも、楽しければ楽しいだけ、怖い」


終わるのが、怖い。


「……うん」

「すごく、怖いよ」


不安を、穂積くんに吐きだす。
穂積くんは、怖いを繰り返す私に、何回でも相槌をうってくれた。
はち切れそうだった私の中の不安が、少しだけ収まるまで。

23時を過ぎた頃、美月ちゃんが起きた。


「よし、美月ちゃんが起きたんなら、花火だ!」

「え。穂積くん、そんなものまで持ってきてたんだ」

「おうよ! 準備は怠らないぜ!」

「ちょ……っ、何この量!」


四人で消化できるのかと言うくらいの量が穂積くんのバッグから溢れてくる。
しかも、


「俺も、持って来た」

「園田くんまで⁉」


花火は追加された。
山になった花火を見て、美月ちゃんが笑う。私も一緒に笑った。

みんなで花火を抱えて外に出た。

星が瞬く夏の夜空が、遮るものもなく果てしなく広がる。
そっと、柔らかな風が頬を撫でた。


「あ。夏の大三角形だ」


煌めく星たちの中から見つけ出す。
私は、けっこう星座も好きだ。
空という大きなキャンバスに無数に広がる点をつなげば絵になるというのはとてもロマンがある。
線を引いても、どう贔屓目に見ても美女や筋肉隆々の男性にならないのだけれど、ギリシア人の想像力は高く評価したい。


「え、どれ?」


私の横に立った美月ちゃんが、同じように空を仰いだ。


「ほら、あそこの、キラキラしてる三つの星……あれとあれと、あれを繋げるの」

「えー、どれもキラキラしてるよ! 分かんない!」

「そんなことないよ。ひときわキラキラしてるのがある」

「えー。えー?」


美月ちゃんが唇を尖らせる。


「ヒィ、よくこんなにたくさんの星の中から見つけ出せるよね」

「たくさんあるけど、わかるよ。わかるもんなんだよ」

「ふうん」

「こと座のベガに、わし座のアルタイル、それに白鳥座のベネブ。ベガとアルタイルは、織姫と彦星なんだよ」

「ふおー、ヒィってすごい! そっかあ、知らなかった」



< 183 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop