あの日のきみを今も憶えている


美月ちゃんがいなくなってから、一年が過ぎようとしていた。

校舎の窓から見える桜は落葉し、冬を超え、薄桃色の花を開かせ、散らせた。
今は青々とした葉を茂らせている。
窓際の席に座った私は、その葉をぼんやり眺めていた。


「福原ぁ! お前、最高賞だぞ! やったぞ!」


現在、数学の授業中である。
しかしそんなことお構いなしに飛び込んできた杉田先生は、私を見つけるなり、抱きしめてきた。


「ふ、ふお! な、なんですか杉田先生!」

「やったぞ、お前、内閣総理大臣賞だぞ。我が高初の快挙だ。やったぞ、おめでとう!」

「は……? それ、『こうこうび』の?」


二年生の夏の終わりから、集中して描いた絵。
それが、受賞した?
茫然とした私に、杉田先生が頬ずりする。


「ああ。そうだ! ほら、喜びあおうじゃねえか!」

「ぎゃ! 止めて! 痛いキモイ! このセクハラ教師!」


大暴れする私を抱きしめて、杉田先生は歓喜の声を上げる。


「ちょっと、離してってば!」

「ああ、教師冥利ってこのことだな。すげえ嬉しい。俺に喜びを与えてくれたお前をこれからミューズと呼ぼう!」

「呼ぶな!」

「あ、あの。杉田先生? 今授業中でして」

「いやこれは失敬! しかし、俺のミューズの快挙です! 許して下さい!」


そんな騒ぎのせいで、私が『こうこうび』という美術展で開校以来初の快挙を成し遂げたという話は、一気に校内中に広まったのだった。

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