あの日のきみを今も憶えている
「おめでとう、ヒィ」

「あー、どもども」


福原が授業中に杉田先生に愛の告白をされたという、碌でもない噂が広まった昼休み。

私は穂積くんと園田くんと三人でお弁当を食べていた。
美月ちゃんがいなくなっても、あの夏からの習慣はなくならなかった。
私のお弁当にはいつでも、美月ちゃんから教わった卵焼きが入っている。


「すっげえ真剣に描いてたよな。どんな絵なんだ?」


私のお弁当箱からその卵焼きを一切れ摘み上げた園田くんが言う。

園田くんは、あれから少しだけ荒れた。

タイムリミットを黙っていた私と穂積くんに怒って、怒鳴って、手が付けられなかった。
だけど、それが美月ちゃんの意思だったと分かってくれて、それから『ありがとう』と言った。


『最後の瞬間まで、美月と永遠に一緒に居られるって信じていられた。それは、幸せなことだったのかもしれない』


と、言ってくれた。


今は随分落ち着いた。
だけど、今でも美月ちゃんの話をするときは寂しそうな顔をする。
それはそうだ。
だって、美月ちゃんが亡くなってまだ一年も経っていない。
思い出を懐かしむには、まだ早すぎる。


「あ、俺も見てない。どんなの、ヒィちゃん?」


穂積くんは私のお弁当箱からミートボールを取り、代わりに私の好きな唐揚げを入れてくれた。

穂積くんとは、あれから特に進展も何もない。
私は絵にかかりきりになってそれどころではなかったし、園田くんと同様、まだ美月ちゃんを失った悲しみを抱いている。
穂積くんも同じなのか、私を気遣ってくれているのか、何も言わない。

園田くんと同じくらい、穂積くんは大事だ。
だから、私はこの距離をとても大事にしたいと思う。
それは、ズルいのだろうか。
答えはまだでない。


「うーん。説明するより、直接見て欲しいかな」

「え?」

「今度、受賞式があるんだ。二人とも、来て」

「そりゃあ、いいけど」

「よかった、約束ね!」


私は唐揚げをぱくりと食べて、二人に笑いかけた。


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