あの日のきみを今も憶えている
気の抜けた返事をした私に、杉田先生は不満げに鼻を鳴らす。


「奨励賞なんかで満足してないだろ、悔しいだろ。
あれはすごくいい作品だったのに、見る目のない奴が多かった。
本当ならもっと評価されてよかった。
次こそは、あいつらにぐうの音も出ないような作品叩きつけてやれ」


熱いなー、先生。
私、奨励賞でもすごく満足なんですけど。
嬉しくて小躍りしちゃった上、両親に頼んで焼肉食べに連れて行ってもらったくらいなんですけど。

だけどそんなこと言うと、この人はもっとボルテージが上がるわけで。
「そうですね」と言うしかない。


「頑張ります」

「おう、頑張れ。いいか、自分の感覚を最大限解放しろ」


よく分からないアドバイスを残して、杉田先生は他の部員に声を掛けに行った。


「へえ、杉田先生が美術部の顧問なんだー。ヒィ。期待されてるって感じだね!」


美月ちゃんがニコニコと言うので、「今日は先生絶好調だねー」と独り言のように呟いた。

それから夕方まで絵を描いて過ごした私は、五時少し前に公園に向かったのだった。


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