桜の花びらの記憶
 お兄ちゃんの息が私のおでこにかかる。

 酸素の少ない水槽の中の金魚の気分だ。

 もうあっぷあっぷ。

 それなのに急カーブ。

 私の頬がお兄ちゃんの腕にぶつかる。

 カッと熱くなる顔。

 のぼせて鼻血が出そう。

 私どうしちゃったんだろう。

 まともに息もできない。

「由梨?」

 その一言で私の心臓がバカみたいに大きく動く。

 口から飛び出しそうになる。

 お願い、もう耳元でしゃべらないで。

「お前、熱いぞ、熱あるんじゃねえか?」

 やめてお兄ちゃん、そんなに顔近づけないで。

 その手のひらを私のおでこになんかくっつけたら、ますます熱が上がっちゃう―。
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