桜の花びらの記憶
 気が付いたら家にいた。

 布団の中で寝ていた。

 電車の中で倒れたらしい。

 お兄ちゃんは学校にも行かず、折り返して私を家まで運んでくれたらしい。


 
 私は恥ずかしくて、恥ずかしくて、それから三日学校を休んだ。

 お兄ちゃんが何度か様子を見に来てくれたけど、そのたびに寝たふりをした。



 四日後、私はお兄ちゃんより早く学校に行った。

 お兄ちゃんの顔が見られなかった。

 お兄ちゃんのそばにいられなかった。 

 お兄ちゃんの顔を思い出すだけでドキドキが止まらない。

 声を思い出すだけで胸がぎゅっと苦しくなる。

 お兄ちゃんのそばにいたら私きっと窒息死する。



 なんで今まで平気だったんだろう。

 なんでこんなに平気じゃなくなっちゃったんだろう。
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