桜の花びらの記憶
 お兄ちゃんは自分の上着を私のかぶせ、私の肩を抱いた。

 久しぶりのお兄ちゃんの匂い。

 波の音が心地いい。

「車、戻るか?」

「もう少し、ほら」

 水平線の向こう側、もう少しで太陽が顔を出すよと小さな光が眩しく光る。

 小さな光はどんどん大きくなり、海を飲み込んでいく。

 徹夜明けの腫れぼったい目には眩しすぎて目が開けていられない。

 二人で光に飲み込まれていきそうだった。

「今日のこと忘れないからな。お前も忘れるな」

 意味ありげなことを言うお兄ちゃんは目をつむって光を感じている。

 次に目を開けた時は、なにか清々しい表情をしていた。
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