溺愛ドクターは恋情を止められない
「松浦さん、どうかした?」
「いえ、なんでもありません」
女の子の全身にまとわりついていた大量の血が、頭の中を駆け巡る。
それから、どのくらい時間が経っただろう。
「高原、もう無理だ」
「いえ、この子の親はまだ来てないんです! やらせてください」
隣の部屋にいても、『高原』と呼ばれた先生の息が上がっているのがわかる。
「高原、お前の気持ちはわかる。だけど、もう、無理だ」
次にそんな弱々しい声が聞こえたあと、無常な音が鳴り響いた。
――ピー
「九時四十二分。ご臨終です」
イヤだ。
あの子が――あの子の命が、ついえてしまったなんて。
「天使のセット取ってきて」
ここでは、亡くなった方の処置をするものをまとめて、『天使のセット』と呼んでいる。