溺愛ドクターは恋情を止められない
救急は、他科に比べると死に至る確率が高い場所。
しかも、事故などで予期せぬ死が多い。
どの先生もこうして経験を積んで一人前になっていくのだけれど、助からない命があることを受け入れるのも使命なのかもしれない。
「松浦、サンキュ。松浦と話すと、いろんなことに気がつける」
「いえ……私はなにも」
それからは、取り留めのない話に夢中になった。
彼は学生時代、友達と貧乏旅行をした話を始めた。
「えっ、それでどうしたんですか?」
旅行中に、お財布がすっからかんになったらしく……。
「そりゃ、歩いたよ。ひたすらね。だけど、ある時これじゃあ家に着く前に飢え死にするって気がついて、たまたま目の前にあった工事現場で、日雇いで雇ってもらってさ、それで生還」
「イヤだ、先生。結構無謀ですね」